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スキルスがんを内視鏡画像で見た写真、胃壁全体の硬化と膨隆、潰瘍部分からの出血を見ることができる。
スキルス胃がんの内視鏡画像(Wikipediaより)
特徴的な胃壁の硬化と膨隆を見る。
通常の胃癌のような火口型の潰瘍は認めない。

スキルス胃がんの発症にかかわる遺伝子

スキルス胃がんの発症にかかわる遺伝子が同定された
という報告が2008年6月号(オンラインでは5月18日に発売)
に発表された。



胃がんの症例数が圧倒的に多いのは日本と韓国である。

その理由が塩分過多の食生活にあるとも、ヘリコバクター・ピロリの蔓延にあるとも言われていたが、スキルス胃がんに関しては食生活やピロリとのかかわりは指摘されていない。

さらに、日本や韓国だけに症例数が多いわけではなくて世界的に散見される疾患であることから、なにか遺伝因子的な問題があるのではないか(つまり遺伝的に起こりやすい何かを持つ人人がいるのではないか)ということが推測されていた。

(他の腸上皮化生型の胃がんが多いことから、早期診断方法や治療方法が進んでいるのは日本と韓国であることは記しておく。)


それを調べようと思うと、スキルスの患者さんやその家族、それと年齢や性別、慢性疾患の有無などのバックグラウンドを合わせた健常者の遺伝子を調べて比較する必要が出てくる。

しかも、30億塩基対並んでいる遺伝子情報のどこを比較すればよいかはわからないから、コンピュータ化されている部分が増えてきたとは言っても、結構大変な作業でもある。


実際にこの試みにかかわったのは日本の国立がんセンターを中心とした世界中の24の研究グループであった。

驚いたことに、前立腺がんのマーカーとして知られているPSCAという物質の遺伝子の発現の多寡がスキルス胃がんの発症に関係している可能性が高いという。


その論文は以下の科学雑誌のリンクにいけば、
登録することで英語の抄録が読めるが、
かいつまんで説明してみようと思う。

Nature Genetics 40, 730 - 740 (2008)

(ちなみにPubMedという科学検索サイトで英語抄録は登録しなくても読める。
 PSCAの遺伝的多型はびまん型胃がんの感受性に関連する

報告なので、「ですます調」で行きます。


この報告が少なからぬインパクトを与えた理由は、スキルスがんの発がん因子として重要だということがわかったことで、前立腺がん制御への取り組みに大きな影響を与えるかもしれないということにあります。

PSCA (prostate stem cell antigen) 前立腺幹細胞抗原というのはもともと前立腺上皮の比較的未分化な細胞、特に前立腺がんで発現している分子で癌の診断に用いられるだけでなく、これに対するモノクローナル抗体がネズミの実験では前立腺がんの進行を止めることがわかったことから、前立腺がん予防ワクチンでターゲットとされている分子です。

つまりPSCAを発現している前立腺がん細胞を攻撃する抗体医薬が開発に向けて研究されていたというわけです。





一方で今回の研究報告ではPSCAは胃粘膜上皮細胞でも、それが分化していくある段階で発現していること、その発現はどうやら上皮の増殖を抑制しているらしいことがわかってきました。

日本人や韓国人のスキルス胃がんの患者さんの遺伝子を調べて正常な人と比較したところ、スキルスがんの患者さんたちではPSCAの遺伝子の中の転写調節にかかわる部分に同じ変異があるというのです。

どういうことかというと、スキルスがんの患者さんたちの持つ遺伝子配列の場合、そうでない人に比べるとPSCAの発現量が少ないらしいのです。

それでPSCAを発現している段階の胃粘膜上皮細胞がコントロールを外れた増殖に陥りやすい、それが少なからずスキルス胃がんの発症に関連している可能性があるというわけです。


スキルス胃がんは通常の胃がんと異なり、胃粘膜の深いところの粘膜上皮が勝手にガンガン増えだして癌化するというもので、気づいた時は胃の全体ががん細胞で取り巻かれていることが多いのです。

PSCAの発現量がもともと少ない人がそういう事態に陥りやすいのは、胃粘膜上皮の分化過程のPSCAの発現パターンから納得しやすいものです。

PSCAの十分な発現が胃粘膜がスキルスがんにならないために必要なわけです。


さて、それでは前立腺がん予防を狙って、PSCAを発現している前立腺がんを殺すように作られた抗体医薬、これは胃粘膜上皮も殺してしまうのではないでしょうか?

胃に対する自己免疫病のようになる可能性があります。

もう一つ怖いのは、もしもこの抗体がPSCAを発現している胃粘膜上皮を殺さないけれども、その機能だけを阻害したとしたら、おわかりですよね?

スキルス胃がんが起こりやすい状態を誘導する薬になりかねません。


単なる杞憂で終わって前立腺がんの予防薬ができるのは理想的ですが、自分が癌になるときどっちか一つ選べと言われたら、私はスキルス胃がんよりは前立腺がんの方を選びたいです。

この辺のこと、慎重に慎重に、ネズミと人では違うこともありますから、慎重な検査・研究を進めながら薬を開発していただきたいものです。

posted by すきるすがん at 22:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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